ユリアン初陣直後
 ワルキューレ3機撃墜、巡行艦1艦完全撃破。
 これが僕の初陣の成果だ。

 自分ながら出来すぎだと思う。新兵の生還率は必ずしも高いとは言えない中、生還しただけでも充分だと言うのに…おそらくは僕に味方してくれる天使でも居たのだろうか。
 或いは、天上にいる両親からの手向け?「こんなにも立派になって」と喜んでくれていたのか?
 …こんな風にして、この戦績を分析するに当たっては、不可思議な現象の存在にまで頼ってしまいそうな状況だった。それ程までに自分の戦果が信じられない訳で――これが自分の実力なのだと驕ってもいけないと思う。次はどうなるのか判らないのだし。

 でも、周りの大人たちが僕を見る目は変わってきたと実感する。
 この戦果のおかげで、僕は軍曹に昇進できた。それ以上に、出撃して生き残った事で「新兵」ではなくなった。僕はようやく周りのパイロット達と同じ立場になった。僕自身そう認識し、そして彼らもそう認識したのだろう。

 それでも、ヤン提督は僕の事を喜んでいるのかどうなのか。
 何せ出撃後の対面時の第一声が「危ない事をしちゃ駄目だと言ったじゃないか」だったしね。…あの時の光景を思い出すと、何故だか笑いがこみ上げて来る。
 …アレを思い出して笑えるって事は、そう言う事だよな。ヤン提督は「危ない事はするな」って仰るけど、本気で僕を止めようとしている訳ではないって事で。僕はそれを理解しているって事だ。

 確かに、僕の父親は軍人だった。そして僕は軍人にならなきゃ教育費を返還しなきゃならない事になっていた。
 でも、だからって、軍人になろうと思った訳じゃない。最初はそうだったかもしれないけど――両親が死んで祖母も死んで天涯孤独になった時は、そう思ってたけど。実際問題として、義務教育が終わったからといってすぐに稼ぎが見つかる訳じゃない以上、それしか選択肢がなかったんだけど。
 でも、今は違う。

 ヤン提督のお役に立ちたいと、真剣に思っている。
 だから軍人になった。
 だって、ヤン提督が軍人である以上、僕も軍人にならなきゃお傍に居られないんだし。ヤン提督のお役に立つためには、やはり軍務を身に着けなきゃならないと思ったんだ。
 そりゃあ、僕なんかがヤン提督のお役に立てるかどうかは判らない。でも、ヤン提督に劣る部分をフォローする事は出来るのではないだろうか?
 だってヤン提督は人格的な美徳を抜きにしたら、本当に戦略眼しかお持ちじゃないんだから。家事はまるで出来ないし、射撃の腕は危なっかしいし、足元見ないで歩くからすぐに転ぶし…だから部屋の掃除はちゃんとしなきゃ駄目だって言ってるのに。
 …あれ、話ずれちゃった。

 幸いにも僕にはスパルタニアンのパイロットしての腕はそこそこにあったみたいだ。いや、本当に驕っちゃ駄目だとは思っているけど、少なくともヤン提督よりはマシだとは判ったと思う。
 薔薇の騎士の皆さんに訓練つけて貰った結果、射撃の腕も、近接戦闘能力も、そこそこには持ち合わせていると思う。だから、ヤン提督のお傍に居れば、ボディガードみたいな事は出来るんじゃないだろうか。…バグダッシュ大佐みたいな人が今後現れないとも限らない訳だし、彼みたいに本当に転向してしまわない人だって居るだろうし。

 キャゼルヌ少将は、僕に対して「ヤン提督の毒見役をしろ」と仰った。僕を提督の第一の腹心だとも。つまり、僕の立場にはそれだけの価値があると言う事か。
 色々と認めて貰って本当に嬉しい。反面、今までは単なる憧れでしかなかったヤン提督に対してある一定の「責任」を持たなくてはならなくなった、そんな重圧も感じ始める。

 でも、僕の願いはひとつだけ。
 ヤン提督のお傍に居たいだけなのだ。
 それを叶えるためならば、ボディガードでも毒見役でも何だってやってのけよう。
 挿絵はこちら

 メニューの並びの通り、「少佐の初陣」はこのSSを考えていた時に派生してきた奴だったりします。派生側があっさり書き上がったのが何だかなあという感じですが。
 結局個人的には、ミッターマイヤーと同じ位にユリアンが好きなので(どうでもいいが、俺の他に見当たらんなーこう言う銀英ファン)、こいつらを比較してしまう訳です。

 あっちのSSとトークに書いた通り、将官以前のミッターマイヤーは「ヤン以上に矛盾を抱えた上で軍人やってた」と個人的解釈。
 それに対してユリアンは、孤児になった時点から既に軍人への道を志す。途中でヤン提督に出会い心酔してその目標は「ヤン提督をお守りする」と変質するけど、本質は変わらん。むしろ軍人であるヤンを守るためには軍人になる他ないのだから、目標は完全に補強される。
 フレデリカもエル・ファシルの戦いの際にヤンに憧れて軍人になった。ユリアンも同じ事だろうが、フレデリカはむしろ愛情が先に立ってるのか。ユリアンは元々が中性的なキャラの立ち位置ではあるが、仮にユリアンが女の子だったらやっぱりストーリー上ヤン提督とくっついたんかねえ。
 そう考えるとデリカさんとユリアンって、細かい設定抜きにしたら同一キャラとみなしてもいいのか?グリーンヒル提督の娘云々と言うキャラ設計は、キャラ分割後になされたと解釈して。
 ん?だから俺の女性キャラ萌えNo1はデリカさんなのか?ユリアンが好きだから、女性も同じようなキャラに惹かれたのかな?

 …豪快に話が反れた。そういやデリカさんはキャラ絵は描いたもののキャラ自体のトークはまだ真面目にやってないから、今後やろうと思う。

 まあとにかく、ユリアンって子は人生の当初から「軍人になろう」と心に決め、「ヤン提督をお守りするんだ」と言う補強も可能になってる訳だ。
 当初の目標が、疑いもなく貫徹出来てる辺り、ユリアンは本当に幸せなキャラだと思う。尊敬するヤン提督自身は矛盾を抱えつつ軍人をやっている。全くもって大きな違いだ。

 「少年時代に夢を見続けられるのは、自分の真の姿を知らないからだ」「夢に酔い続けられるからだ」とは、帝国の皮肉野郎ロイエンタールの台詞だが、そういう意味ではユリアンはずっと夢から醒めずに居られた「少年」なんだよなーと解釈。
 この手の皮肉が同盟側にたくさん居るはずの「皮肉屋連中」から出てこなかった辺りが不思議かも知れないが、多分に同盟の中枢もユリアンと同じく「ヤンという夢」に酔い続けてたからそんな事言えないんだろうな。

 でも、ロイエンタールの台詞が彼らに当てはまるかどうかはね。
 勿論ヤンが偉大なのは当然として、夢を見る側も同じく偉大だったと言う事なんだろう。ヤンが死んで夢から醒めた、投げ出した人間も数多いんだけど(イゼルローンから離脱した人間達)、首脳部は夢を継承して投げ出さなかったんだよな。それは逃避ではなく、むしろリアリスティックな選択であって。醒めてる暇なんかねーよこん畜生、てな感じで現実肯定。

 そういう精神論理ってどんなんだとは思うが、「結局皆ロマンチストなんだよ」って事か。歴史を作る連中ってのは、皆。じゃなきゃ伊達と酔狂で革命やったり叛乱起こしたりしないか。

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