ヤン一家
 いつもと同じような朝がやってくる。僕は普段通りに眼を覚ました。
 窓からは早朝の日の光が差し込んでくる。イゼルローンの人工的な朝にも慣れてはいたが、やはり地に足をつけた生活の方が人間のリズムに合っているような気がする。
 とは言え僕は地上だろうが要塞だろうが――宇宙空間だろうが、「朝」と規定された時間には眼を覚ます。そして朝の準備を始める。
 冷蔵庫の中身は――っと。うん、いい感じで片付いてきている。何せこの家から人間が居なくなる訳なんだから。今日の朝食を作って、他にも保存できそうな料理を作っておこうっと。

 僕が料理を始めて半時間程度した頃に、台所の外から声がした。
「――やあ、ユリアン」
「おはようございますヤン提督」
 いつものようにスリッパをぺたぺた鳴らして、僕の保護者が起き出してくる。保護者とは言え、僕より遅いのはいつもの事で――あ、でも。
「今日はお早いんですね」
 僕の指摘に彼は苦笑いする。ぼさぼさの髪を掻き上げた。おそらくは遅くまで寝付けなかったのだろう。そしてようやく眠っても、眠りがかなり浅かったのだろう。
「その、今日の事を考えるとやっぱり眠れなくってね」
「普段通りになさればいいじゃないですか。どうせ出席者も同じ顔触れですよ」
「だから妙な気分になるんじゃないか…」
 唇を尖らせる。それに僕は笑ってしまう。その態度に彼はちょっとむっとしたようだが、僕は笑って口を開く。
「もうすぐ朝ご飯出来ますから。今日は提督もお忙しいでしょうから、その間に身支度なさって下さい」
 僕の勝ちだった。

 スープも出来たし、そろそろパンも焼いておこう。それから野菜サラダも作って…。
 ヤン提督は今日、御結婚する。ご相手はグリーンヒル少佐で、僕も参列者も見知っている女性だった。と言うか色々な意味で既に物凄くお世話になっている。だから安心している。こんな、日常生活においては非常に頼りない提督相手でも何とか愛想尽かさずに居てくれるのではないかと…。
 夫妻は暫く山荘で暮らす事になるそうだし、僕は今晩から別件でこの家を離れる。暫く皆さんとは会えない事になる。自分が選んだ事だし、それがいつか役に立つ事になると信じている。いずれ、ヤン提督達が動く時のために。
 それが何時になるかは判らない。おそらくは帝国次第なのではないだろうか。あの、敵ながら偉大な皇帝が失政するとは思えないが、このハイネセンまで影響力がそう続くとは思えない。それに同盟政府ももう長くないだろう…。
 まあ準備だけは怠らず暢気に生活すればいいさ――提督はそう仰っているのだから、僕もそれに従うつもりだ。
 数ヶ月の旅になると思うけど、その後はまた提督の元に戻ろうと思う。その時に居場所がなかったら嫌だなあと思うけど…奥方のグリーンヒル少佐、いやフレデリカさんなら僕の居場所も残していてくれるんじゃないだろうかと期待している。何せ今まで仲間だったのだから。完全に邪魔者ではないと思ってくれるのではないだろうか…期待し過ぎかなあ。
 何にせよ、「僕の家」とは、ヤン提督のお傍なのだ。
 挿絵はこちら

 資料が他のキャラに較べてかなり手に入ってるのに、ヤンが似ねえ!
 実はフレデリカさんも描きたかったのだが(だからタイトルが「ヤン一家」だった)、原作のこの辺読み返すと、デリカさんとユリアンが同居してる時期ってはっきり言ってないんだよな。ユリアンは結婚当日に地球に旅立ち、その間に提督逮捕〜ハイネセン脱出騒動だし。エル・ファシルで再会してからはもう色々忙しいから料理したりも出来ないしな。

 繰り返すけど、ユリアンはヤンの事を本当に敬愛しているんだなあと思う。シチュー作ったり紅茶入れたり掃除したり…被保護者だってのにまるで家政婦(いや夫か)みたいな彼だけど、それらは強制や義務感じゃなくてヤン提督が喜んでくれるから好きでやってるんだよなあ。
 その辺が可愛くて好きだ。何が悲しくてこんな生活能力ナッシングな奴の被保護者にされてしまったのかと言う気もするが。しかも何が面白いのか、完全なる崇拝対象。

 ヤンがユリアンを可愛がってる姿をもっと描いてみたいですよ。


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